前世で猫のミケは、時夫と言う俺の恋人だった。
現世の今、二人は猫と新選組隊士。
愛し合えるはずもない。
来世へ行かなければだめなのか。
いや、来世へ行っても、二人が人間同士、
恋人同士に生まれ変われる保証はどこにもない。
前世で犯した俺の過ちが、二人を引き裂いてしまったのだ。
彼には謝っても謝りきれない。
しかし、彼を忘れることは出来ない。
子持ち猫のミケから離れられず、俺は禁断の愛にもがきつづけている。
三日後、熾烈な「禁門の変」が終わり、隊が屯所へ戻って来た。
長州勢の惨敗だった。
隊には一人の死傷者もない。
新選組は目立った活躍はなかったものの、その士気は守護職、幕府から高く評価された。
その夜、俺は土方さんに呼ばれた。
七名の長州勢の死体が屯所裏手にあっが、母屋と大広間は長州勢本隊に土足で荒らされ目も当
てられない惨状になっていた。
八木邸へ俺が猫を連れて逃げ込んだ、との噂を耳にしたらしい。
部屋へ入るなり土方さんは厳しい声で言った。
「戦うな!土蔵に潜んでいろ!と、俺は命じたはずだ」
土足で踏み荒らされた自分の部屋を見渡して、彼は続けた。
「お前らしくもない!なぜ八木邸へなど逃げた!」
「人を斬りたくなかったからです」
「裏には長州の死体が転がっていた。あの斬り口はまちがいなく、お前のものだ」
「あるものに忠告されました。それから人を斬るのをやめました」
「見廻り組一番隊隊長は、続けてもらう!お前に消えられては、隊の士気にかかわる」
「続けます。だが、これからは浪士は斬るが、命までは取らない」
「そんなことが出来るのか!お前に人を斬るなと言ったのは誰だ!なぜ、そこまでそいつにこ
だわる!」
「答えたくない。ただ、見廻り組一番隊は今まで通り、俺が指揮します」
土方さんがじっと俺を見る。
「お前、変わったな。前のお前は余計なことを考えず、ひたすら任務に果敢だった」
「変わったのではなく、本来の自分に戻ったんでしょう」
「一番隊は新選組の象徴だ。卑怯未練な振る舞いがあったら、切腹などさせん!
即座に俺が斬る!」
怒りの目ではなかった!
哀しみに満ちの土方さんの目が、強く俺の胸を打った。
土方さんは俺を部下や同士ではなく、実の弟と見ている。
自分の部屋へ戻る途中、俺は心に誓った。
ミケとの約束は守る!
だが、土方さんの期待にも応える!
その答えはただひとつ。
敵を殺さずに戦力を奪うこと!
それには、対する敵の小手を落とすしかない。
さいわい小手は、俺のもっとも得意とする剣技だ。
小手にもいろいろな種類があるが、俺の得意なのは出小手だ。
明日から京の街のそこかしこに、不逞浪士の手首が転がることになる。