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新選組誕生秘録ー(24)賄いの井戸

15 原田左之助

原田さんは副長助勤室の
一番外れの部屋にいた。
どっかとあぐらをかき、
湯呑茶碗で酒を飲んでいる。

脇に一升瓶がある。
おいおいおい、朝から一升酒かよ。
座った俺の前に茶碗を置き
なみなみと酒を注いだ。

挨拶代わりに一杯やれと言う。
酒ならいくらでも飲むけど
まだ屯所で飲んだことはない。

知らんだろうが、
俺にはへたに酒は進めん方がいい。
底なしだと言われてる。
豹変するとも言われてる。

まだ限界まで行ったことがない。
酒も飲めんのかと、
原田が上から目線になったんで
水代わりに一気にあけてやった。

原田の態度が俄然変わった。
化け物でも見るような目で俺を見た。
「原田さんに会って来いって、土方さんから言われました。
何用ですか」

俺は一番気になってたことを聞いた。
「何をって、俺の隊がお前を助けろってよ」
そう言うことか。

昨夜は俺一人で長州を相手にしたが、今度は原田さんの力を借りろと。
確かに原田さんの隊は、小荷駄雑具隊でヒマなんだ。
戦争にでもならなきゃ、お呼びのかからない隊だ。

「戦さの準備は河合や尾関の勘定方がやってる。
俺は酒くらって寝てりゃいい」
「他に隊士はいないんですか」

「お前、やに熱心だな。
小荷駄に関心でもあんのか」
そんなもんあるわけねェだろ!

また昨夜みたいになって一人で戦い
クビになるのやだから聞いてるだけだ。
「仕事が欲しかったら勘定方へ行け。
あそこには何かある。帳簿仕事だが」

参ったな!原田さんて種田宝蔵院流の槍の使い手って
聞いてたけど、とんでもねェろくでなしだ。
「そういや副長は、賄いの女がなんとか言ってたな」

土方さん、頼むからこの警護の仕事は、
原田さんなんか言わないでくれよ!
また茶碗に酒を注ぎそうになったんで、
俺はあわてて部屋を出た。

原田さんも勘定方も全関係ない話だ。
足が自然と賄い方に向いた。
お勢さんが男衆二人と
錦市場へ夕飯の買い出しに出るとこだった。

俺はお勢さんと並んで歩いた。
やっと、やっと二人で外を歩ける。
男衆二人は後からついて来る。

「原田さんとは会ったの!」
お勢さんが聞いた。
「一升酒飲んでた。俺と飲みたがってたから、
その内、飲み潰してやろうと思ってる」

お勢が大笑いした。
「伝さんて、そんな特意技持ってたんだ。
新選組には大酒飲み多いわよ」

突然、離れて前と後ろに武士がいるのに気づいた。
チラリと見た刀の拵えから、薩摩と分かった。
お勢さんが外へ出れば、当然狙われる。

俺は彼女に会えた嬉しさで
そんな初歩的なことも忘れて、
舞い上がってた。

もう一人の警護の古松とか言ったバカはどこだ!
お勢さんに聞くと急用があるので
それを片づけてすぐに追いつくはずだと言う。

それじゃ遅ェんだよ!役立たずが!
さらに増えて、薩摩っぽが前に二人、うしろが三人になった。
襲って来ないのは、きっと中村半次郎か誰か
大物を待ってんだ。

古松のバカなんか待っちゃらんねェ。
先手を打ってこっちから仕掛けるんだ。
お勢さんが「あッ!」と
小さな叫び声を上げた。

視線の先を見ると、
なんと、原田さんが人混みの前方から来るじゃないか。
いつの間に屯所を出てたんだ。

よし、お勢さんは原田に任せて
薩摩っぽは俺が相手しよう。
示現流か!面白ェや!!

red18
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