翌日、上重が家へ戻ると、
珍しく真奈美がまた捜査についていきたいと言う。
今かかっている堺殺しの捜査は、これまでのものとはまるで違う。
だめだと言うと、どうしても行きたいと執拗に言う。
これは普通の捜査ではない特殊捜査だ。
警視庁の威信をかけた総力戦だ。
捜査中の他の事件は、総監命令ですべて中断された。
真奈美は一ヶ月前の真奈美ではない。
上重は彼女がこれまでとは違う、何かを考えているのを感じた。
それでも家にいろ!と命じた。
真奈美はおとなしくそれに従った。
これも今までにはなかったことだ。
真奈美には白貴の意図が分かっていた。
自分とニューヨークへ行こうと誘ったのは本気だ。
行く前に、捜査本部長の叔父と堺の上司上重を
密かに始末するつもりなのだ。
絶対そうはさせない!
右掌に重傷を負って、どうやって二人を殺ると言うのか。
分からないが白貴ならやる。
離れて上重を見張るしかない。
アメリカ海兵隊特殊部隊の白貴の父の捜査は
警視庁からFBIを通じて進んでいるはずである。
三日後の午前十一時、本庁との打ち合わせを終えた杉並署署長服部が、
捜査本部へ行こうと迎えの車に乗ろうとした。
車道の反対側から飛来して来た黒いナイフがその首を貫通した。
警護の景観と運転手が救急車を呼び、
反対側の歩道へ走ったが、地下鉄、車、逃走いずれの
方法を使ったのか犯人の目撃者はわからなかった。
警視庁本庁前で起きた事件に周囲は騒然となった。
五分後に救急車は到着したが、
救急隊員の手により、その場で署長の死が確認された。
上重と捜査員の動きを数十メートル離れて尾行していた真奈美は、
顔色を変えてスマホを握る二人に異変を知った。
まだ傷の癒えない白貴がどうやってやったのか、
真奈美には見当もつかなかった。