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転生したら沖田総司だった(22) 葛山武三郎の最後 1 心中交通事故

1 心中交通事故

結婚が間近に迫っていた。
私と時男のことだ。
二年間付き合っていた。
狭間時男は私より二つ年上で会社では先輩だった。
私たちが付き合っていることは誰も知らない。
別に秘密にしてるわけじゃないけど、成り行きでそうなってるだけだ。
その日私は残業になった。
新しいクライアントのコピー上程がうまくいかず、先輩の指示で書き直していたのだ。
 終わったら十一時過ぎになっていた。
こんなことは別に珍しくもなく、まだ残って仕事をしているデザイナーが大勢いる。
 出勤退社は、タイムカードはなく自己申告制だ。
デスクを離れる前に時男に電話した。
車で迎えに来てもらうためだ。 
彼の背後で騒音がする。
どこかで飲んでたんだ。
誰と・・・。
だが、迎えに来てくれると言う。
嬉しかった。
 これが悲劇の始まりとも知らずに、私はウキウキしていた。
身支度して従業員出入り口を出ると、道の反対側に彼のブルーのBMWが停まっていた。
 彼のマンションは荻窪だ。
東銀座のここまで来るには少し早すぎる気もしたが、私は嬉しさが先に立っていた。
 同僚も一緒に出て来たが、いつものように地下鉄の駅には向かわず会社の前で別れた。
車の中は暖房が効いていた。
 寒さに震え上がっていた私は、それが彼の温かさのように思えた。
すぐに抱きつきたかったが、我慢して手を握ってもらった。
彼の手はひんやり冷たかった。
 車をスタートさせて私は彼の異変に気付いた。
アルコール臭かった。どっかで飲んでたんだ。
 結婚を間近に控えた二人なのに、酔っ払い運転なんて信じられなかった。
彼は自分の部屋ではなく、恐らく銀座のバーかなんかで電話を受けたんだ。
許せない!
「車止めて!」<o:p></o:p>彼に言った。<o:p></o:p> 止めない。<o:p></o:p>逆にアクセルを
踏んでスピードを上げる。
いつもの彼と違う。
 なんかあったのか。いずれにしても、パトカーに捕まったら一発でアウトだ。
「降りるから止めてって!」
 前より強く言った。
彼は笑った。
「こんなの飲んでるうちに入らないって。それに警察は銀座で検問なんてやらない」
「いいから止めてよ!」
そのたかをくくった彼のやり方に腹が立った。
いつもの彼と別人だ。
 いつもは慎重な上にも慎重で紳士的で、無鉄砲な行動など絶対にしない男なんだ。
私はそんな彼が好きだったし、会社でもそれで信頼を得ていた。
 顔を寄せると、かなりアルコール臭が強くにおう。
酩酊状態なんてもんじゃない。
なんでこんなに飲んだんだ。
何があったんだ。
女と別れて来た!それが私の直感だった。
銀座四丁目の交差点へ来ると、彼は左折のウィンカーを出した。
新橋へ行こうとしている。
「どこ行くの。帰るんだから、下ろして!」
 とげのある声で言った。
私のマンションは練馬だ。
「飲み足りない。新橋で飲む」
 女との別れで苛立っている。
そんなことやってたんだ!
思わずカッとなった。
私は発作的に、BMWのハンドルの右側をつかんで力任せに引いた。
彼がアクセルを踏んでたので、車は急ハンドル状態で右へ曲がった。
そこへ直進して来た十トントラックが、行く手を塞いだ。
トラックの巨体がBMWの上にトラックが覆いかぶさって来た。
突然、 私の意識が途切れた。
トラックの衝撃と銀座の騒音を離れ、漆黒の闇の世界へ入って行く。
心地よい母の懐のような心地よい温かい世界だ。ずっと、このままいたかった。
ただ、彼がなぜ激変したのか、そのわけが知りたいと思った。
ハンドルを引いたのは私だ。
意識してなかったが、結果として心中になった。




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