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新選組誕生秘録ー(24)賄いの井戸 7 タロとジロ

7 タロとジロ

お勢が朝起きると大廊下に猫がいた。
生意気そうなヨモギ猫だ。
どうやら豪志さんが早朝、
どっかからさらってきたらしい。

見たことのある猫だと思ったら
それは通りをはさんだ八木邸の飼い猫だった。
これには私も驚いた。

八木邸は元の新選組屯所だ。
そんな縁ある家から猫をさらって来ていいのかよ。
八木邸にはジロと言うもう一匹猫がいて
タロとは兄弟猫だ。

二匹はものすごく仲がいい。
タロが兄でジロは弟なんだが
ジロの方が体は一回り大きい。

大きいくせにおおらかで気は優しく、兄思いだ。
ジロは他の野良猫から意地悪されていじめられると
なめて返すような信じらんない性格のいい猫だ。

ところがタロはそれを知ると猛然とその猫に報復する。
兄弟猫の恨みを晴らす猫なんて聞いたこともない。
私は何度か、その現場に遭遇している。

報復はもの凄い。
やられた猫は二度とジロに手を出さない。
見ていて笑ってしまう。
こんな猫いるか。

近所の猫たちから、タロはかなり恐れられている。
そのタロを豪志さんは大廊下へさらって来たのだ。
いや、タロをさらうなんてことは出来ない。

昨夜の夕食のおかずの魚で手なづけたんだ。
だが、これは大正解だった。
翌日から、大鼠はピタリ!と姿を消した。

タロは屯所に居ついたわけではない。
八木邸と屯所大廊下を行き来する
通い猫になったなんだ。

完全にタロペースだ。
利口なやつだ。
でも、私はこれで豪志さんにもかなり好感を持った。
猫を可愛がるやつに悪党はいない。

私の信念だ。
いや、猫を多数飼う稀代の大悪党がいるかも知れないが、
それは本当は気の優しい悪党なんだ。

猫を好きの警護役とならやっていける!
早朝、大廊下の戸を開けると、
豪志さんの布団の上にタロとジロが仲良く寝ている。

心温まる光景だ。
私はこれを見ただけで、今日も一日よい日だと思う。
嬉しくなって台所へ行き、早速朝食の支度にかかる。

台所へ行くと無人の賄いの通用口に、見知らぬが侍が二人いた。
大刀を下げている。
気持ちが凍りついた!

red18
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