ドアにノックの音がした。
上重がドアを開けると、本庁の捜査官たちが立っていた。
小声で上重に言う。
「どうだ、あったか」
無言で首を振る上重。
上重はそう私に告げただけで、拳銃の家宅捜査などしていない。
「そうか、じゃ我々は引き上げる」
「こっちもすぐに戻りますから」
上重の言葉にうなづいて捜査官たちは玄関へ向かった。
「しばらく家を出るな」
「どうして!」
「堺の次はお前かもしれない。出るな!」
それだけ言って上重は部屋を出て行った。
この部屋に堺君の拳銃がないことを、
パパが認めてくれただけでも嬉しかった。
そんな見当ちがいの疑いなんか、おかしいことに気づけよ!
上重の車が出て行く音が聞こえた。
また、ドアにノックがした。
もう家には私以外誰もいないはずなのに。
ドアを開けると白貴が立っていた。
「お前と話がしたい」
退がるとドアを閉めて彼は入って来た。
右手に堺君の拳銃が握られていた。
日本の警官の拳銃は、外国の拳銃と明らかに違う。
これで私を撃とうと言うのか。
私が壁まで退がると白貴はつぶやいた。
「話したいと言ってるだろ!お前を撃つ気は無い」
「話って、なに」
堺君にあんなことをしといて、今頃話もないだろう!
「お前と、いや真奈美と付き合いいんだ」
近くで見る白貴の目の底には、不気味な殺人者の陰があった。
「あなたは親友だった堺君を、虐殺した!許せない!」
「いや、奴はお前の親友なんかじゃない!
好意を持っているふりをしてお前を利用した」
「殺人を犯した人間となんかと付き合えない!」
「俺の殺しには全て理由がある!恨み、憎しみ、私怨で
殺したことなど一度もない」
「じゃなぜ堺君を!」
「許せないからだ!父親からお前を預かってその能力を知り、
警官としての点数稼ぎ、要するに出世に使おうとした」
私には、彼がそんな風にはとても見えなかった。
「お前と付き合えたら、絶対殺しはしない!約束する」
疑惑の目で私は白貴を見つめた。
「俺は本気だ!お前がいなくなって、学校へ行かずに探し回った」
同級生なら、家は知ってるはずだ。
「家へは何度も行った。親父さんに追い返された!」
父は何もそんなことは言ってなかった。
「何を言っても、これまでの殺しの烙印は消えない!」
その通りなのだ!殺人は、他の犯罪とは次元が異う。
「証拠にもならないかもしれないが、俺の気持ちを見せる!」
そう言うと彼は拳銃を左手に持ち替え、
机の椅子から布団を取って拳銃に巻きつけた。
椅子に右手を置いて、開いた掌に銃口を当てた。
「やめてェ!!」
何をするかが分かり、私は絶叫した。
私の目を見つめたまま彼は言った。
「これで俺は、二度とナイフで人を殺せない!」
そして引き金を引いた。
鈍い銃声がして、座布団ごと彼の掌を銃弾が貫いた。
ショックと激痛に彼の顔が歪んだ。
それでも、私の目を見つめることをやめなかった。
言い知れぬ感情で、私は泣きそうになった。